東西南北


酒井さんの作品詩集(が受賞集)
酒井一吉さん(北陸鉄道OB/石川県宝達志水町)おめでとう

第44回小熊秀雄賞 2冊目の詩集『鬼の舞』に

 北陸鉄道OBの酒井一吉さん(63歳)が、2冊目の詩集『鬼の舞』で、第44回小熊秀雄賞を受賞した。私鉄界での初受賞。


  
小熊秀雄賞とは
 小熊秀雄は、1901年(明治34年)北海道小樽生まれ。1940年(昭和15年)没。
 早くに母を失い幼少期からさまざまな職業をへて成長。21歳の時に姉のツテで旭川新聞社に採用される。やがて文才を発揮して、文芸欄に詩や絵を発表。27歳の時に上京して豊島区長崎町に住む。長編叙事詩集「飛ぶ橇」で詩人としての地位を確立。自由や理想を奔放に歌い上げる作風で、言論弾圧が厳しくなり沈滞していた詩壇に新風を送った。
 また、さまざまな芸術家が住んでいた池袋長崎町周辺を「池袋モンパルナス」と命名し、無名の芸術家たちの自由な解放区を育てたことでも知られている。
 現代詩界を代表する賞の一つとして高く評価されてきた小熊秀雄賞が「明年の第40回をもって終了」と発表されたところ、全道、全国から惜しむ声が相次いだ。2006年11月1日、小熊秀雄賞市民実行委員会は、小熊の業績をたたえるとともに、「北の文化」として受け継ぐべく発足し、現在に至る。



5月14日、旭川市花月会館での贈呈式で挨拶する酒井一吉さん


 以下の記事は、2011年4月5日付・あさひかわ新聞(週刊)からの転載。

 市民実行委員会(松田忠男会長)が運営する第44回小熊秀雄賞の最終選考会が(4月)2日夜、旅館「扇松園」(高砂台三)で開かれ、石川県宝達志水町在住の酒井一吉さんの詩集「鬼の舞」(能登印刷出版部発行)を選出した。

 今回は全国から98点の応募があった。市民実行委員会による第一次審査、道内在住の選考委員による第二次審査を経て、10作品が最終選考にノミネートされた。

 選考委員は、辻井喬(詩人・作家)、工藤正廣(詩人・北海道大学名誉教授)、石本裕之(詩人・旭川工業高等専門学校教授)、藤井忠行(造形作家)の四氏。辻井氏は、体調不良のため出席せず、随時電話で意思を伝える形になった。

 選考会は二時間以上に及び、議論の末に「近頃の現代詩に見られる言語実験のような表現がなく地味ではあるが、働くということ、あるいは自分が生きている郷土への思いを丁寧に、彫るように書き込んでいる。言葉の密度が高く、重厚な作品群は小熊賞にふさわしい」として酒井さんの詩集「鬼の舞」に賞を贈ることを決めた。

 酒井さんは、1947年(昭和22年)石川県志雄町生まれ。詩と詩論「笛」同人。私鉄(北鉄)の運転士を37年間勤め、現在はりんご農家。受賞作は二冊目の詩集。

 受賞について酒井さんは「納得のいく作品も書けず能力の限界を自覚するようになり、詩作の中断と「笛」の退会を申し出たところだった。そんな折の受賞の知らせ。喜びというより驚愕が頭の中を空白にした。大きく重い栄えある賞をどう受け止めるか。自問の答えはまだ出てこないが、素直に喜びとして受け入れ、折れそうなペン先に励ましをいただいたと深く感謝するのみと思っている」とのコメントを寄せた。

 次のテーマは大震災

 「頭が真っ白」。受賞した酒井一吉さんは自宅で、知らせを喜ぶより驚いた。受賞作「鬼の舞」(能登印刷出版部)は自身二冊目の詩集。石川県内の同人誌「笛」などで発表した29編が能登、労働、舞台暗転、日々の四章にまとめられている。

 酒井さんの詩のモットーは批評精神。収録されている詩の一編「八文半」は、57歳で賃金15%カットの辞令を受けた労働者のことだ。リストラや派遣切りが行われる最近の世相に異を唱え、「労働者の誇り」を訴える。同人誌の先輩、故宮本善一さんが1993年に同賞を受賞していることもあり、能登印刷出版部が自主的に応募した。

 同県旧志雄町(現宝達志水町)出身。中学時代から詩を書き始め、県内のバス会社(北鉄)に勤務するかたわら、20代前半から同人誌で活動を続けてきた。53歳で会社を早期退職してからは地元でリンゴを栽培している。

 詩人として今後は東日本大震災をテーマとする決意を固め、新聞の一面の見出しをノートに日々書き記している。「今はまだ書くことはできない。被災地に赴き、自分の目で見てからじゃないと、人の心に届く作品にはならない」と話した。
                     (2011年4月5日/北陸中日新聞:島崎勝弘/一部・私鉄シニアネットで補筆し転載)


 『鬼の舞』から


 八文半


 八文半とは
 足袋の文数ではない
 革靴のサイズでもない
 あらすじの読める時代劇のなかの台詞でもない
 どこかの町のイベントの旗印でもない

 八文半
 それは この国の思想である
 生かさず殺さずを理想とする
 この国の思想なのだ

 八文半とは
 五十七歳の誕生日に
 賃金十五パーセント減額の辞令をうけとる
 労働者の自嘲なのだ
 あるいは
 某企業では五十五歳をもって「いじょう者」とも言う

 昨日までと全く変わらぬ仕事を
 昨日までと全く同じ現場状況で働いても
 八文半であり「いじょう者」であり昇給停止なのだ
 この国のいくつもの職場で
 抵抗のないあたりまえが罷り通るのだ

 異常ともいえる当たり前が通ってゆくほど
 この国は貧しいというのだろうか
 八文半と呼ばれても
 怒りも憤りもみせぬほどに
 この国の労働者は物わかりがいいのだろうか

  「八文半の晩酌じゃ でっかい声も出せぬわい」
 仮泊勤務の夜
 用心深くささやいて
 茶碗酒をあけると僕たちは湿った布団にもぐりこんでゆく
(1992年 笛 188号)

 
 鬼の舞


 綴れの着流しに荒縄の腰帯
 海藻(シゲ)乱れる面をつけ
 五人の男衆は鬼となる
 鬼の打ちふる小パイの地打ちの太鼓は
 低くふとく ほそく高く
 冥界の呻きのように
 地獄の底に引き込むように
 敵なる者の恐怖をゆすり
 揺すりあげ闇の恐怖を深めてゆく

 絶え間ない地打ちの波状
 地打ちの波状にのせ重ね
 打ちこみたたき掛ける乱打は見栄をきり
 空を裂き
 恐怖にふるえる心臓を破るように突き打つ

 能登半島外浦 名舟の御陣乗太鼓
 男衆の打つ地底の響きは
 能登攻めの越後上杉勢を撃退したという

 地底の響きは シゲ振り乱し
 仮面に鬼気の表情をのせて
 侵略者に立ち向かう
 時には敵の動きを探るように低く腰を落とし
 一打ちすると背筋を伸ばし
 太刀の構えにバチを突きだす

 跳び 跳ね ずり
 烈しく 悲壮に 叫び
 たたみこんでゆく連打 乱打の鬼の舞
 鬼の舞は反逆の精神を鼓舞し昂揚させてゆく
2010年6月13日
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