高退協便り

民主党の「税による最低保障年金」には異論

退職者連合が「社会保障・税一体改革」で意見交換


 退職者連合は1月末に年金・税制専門委員会と医療・福祉専門委員会の合同会議を開き、政府・与党が論議している「社会保障・税一体改革」素案に対して意見交換をした。
 一体改革については、方向性については異論はなかったものの、素案の消費税制については、その具体的前提が不十分なこと、政府与党の信頼・信義に疑問があることから、今後、@社会保障制度改革の到達点、A財政収支の全体計画、B公約実現、C消費税制度検討課題の進展状況等をみて、総合的に判断する――として、賛否の意思表示を先送りし、引き続き公的年金等控除・老年者控除復元の運動を進める、とした。

 迷走している民主党の「税による最低保障年金」については、「基本的な具体像がないうえ、制度としての問題があり、実現可能性を欠いている」「@企業負担の家計転嫁、A60年を超える長期の移行期間、そのコストとリスク、B既裁定者は保険料の二重払い、C限られた税収は社会保険方式で安定している年金に用いず、医療・介護・教育・保育等に優先充当すべき。これらを考慮して「新しい年金制度の創設」は一旦撤回して、冷静な制度検討の場を設けるべきである」との意見で一致した(<資料>参照)。
                              ◇◇◇
 退職者連合は2月14日に全国代表者会議を開き、さらに検討を深める。私鉄高退協は6月の方針論議まで議論の場がないが、新方針では退職職者の見解と同一軌道で相談することになる。

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<資料>                                                                
退職者連合
2012年1月31日
社会保障・税一体改革素案に対する見解

 2011年7月1日閣議報告された「社会保障・税一体改革成案」はその後、厚生労働省関係審議会、政府税調、民主党税調等で具体化について審議された。これに基づき、民主党の「社会保障と税の一体改革調査会(細川律夫会長)」と「五大臣会議(国家戦略・総務・財務・厚生労働・少子化対策)」で調整の上、2012年1月6日に「政府与党社会保障改革本部」で「社会保障・税一体改革素案」として決定され、同日閣議報告された。

 素案では、社会保障について@子ども・子育て新システム、A医療・介護、B年金、C就労促進、ディーセント・ワーク(編注:働きがいのある人間らしい仕事)、D貧困・格差対策、E医療イノベーション(編注:革新)、F障害者施策、G子ども若者の育成――等、税制について@消費課税、A個人所得課税、B法人課税、C資産課税、地方税制――等が取り上げられている。これらの課題について調整の成熟度に応じて「予算措置する」「平成24年通常国会に法案を提出する」「法案提出に向けて検討する」「消費税引き上げ年度から実施」「引き続き総合的に検討」「将来課題」等の表現で取り扱い方向が示されている。

制度については今後の具体化をまつ課題が多いが、内容に問題があると思われる事項も含まれている。また、野党の反撥により国会審議が難航することが想定される。
 素案に対して、現段階での退職者連合の見解を明らかにし、意見反映のために取り組む。

 社会保障と財政に関する基本認識

(1)基本的な考え

 退職者連合は、強いもの勝ち・やったもの勝ちの社会ではなく、公正な再分配・適正な社会的規制を備えた社会をめざす。
社会保障は全ての世代の生活を守るうえで不可欠の仕組みであると同時に、その充実によって経済成長をもたらす役割を持っている。
社会保障給付はそれを裏付ける財源と一体である。社会保険料・税の組み合わせで必要財源を整えて、給付改善を実現すべきである。

 退職者連合は、積極的社会保障により市民生活を守ると共に適切な経済成長を図ること、公債の発散=過剰発行による信用崩壊・金利上昇・利払い費増(債務不履行:デフォルト)による社会保障財源の喪失を避けることの両側面から、速やかに社会保障財源を確保すべきであることを主張する。
退職高齢者は、国家財政の悪化と少子高齢・労働力人口の本格的減少時代にあって、信頼できる社会保障制度の機能強化・持続性を確保するためには、能力に応じて適切な負担を引き受けることにやぶさかではない。しかしメディア主導で意図的に制度理解を歪めて、社会保障をめぐる高齢者への「払いすぎ」「優遇」の印象付けが進められていることに対しては、正確な制度理解・データに基づく是正を求める。

 社会保障制度は多くの関係者と長い経過を持つ巨大な仕組みである。その改善・改革は実証に基づく緻密な設計と丁寧な合意形成によらねばならない。
国民負担の合意形成を図るには政府が、現実的で一貫性と体系性をもった社会保障制度と必要財源を提起することが前提である。

(2)わが国の財政状況認識

 わが国の社会保障給付費は2009年度の総額99.9兆円・GDP比29.4%で、市民生活に不可欠でかつ国民経済に重要な役割を果たしている。2012年度一般会計歳出予算案では、社会保障費は26.4兆円29.2%で、国債費・地方交付税交付金を除けば半分以上となる。社会保障はその規模の大きさもあり、負担を嫌う企業と再分配を否定する新自由主義論者から不断に削減の攻撃を受けている。しかし、公正な社会・健全な経済発展のためには積極的社会保障が不可欠である。
一方、わが国の財政は歳出に比して税収が小さく、公債によりその場しのぎを重ねてきたため国・自治体を合わせるとGDPのおよそ二倍に達する公債の累積額となっている。このままの財政運営を続ければ、公債が信用を失い、金利が上昇し、公債の利払い費が増え、社会保障をはじめ一般会計支出を圧迫する。

 この財政構造を考慮すれば、社会保障を支える財政を確立するために速やかに国民的合意を作り上げなければならない。
 * 2012年度末 普通国債残高:709兆円(GDP比148%)、 国および地方の長期債務残高:937兆円(GDP比195%)
 * 2012年度歳出予算案の国債利払い費:9.8兆円(一般会計歳出予算の10.9%)予算案では金利を1.3%程度として計上。仮に1%金利上昇すると、7.1兆円(歳出予算の7.9%)が利払い増になる
 * 参考(7.1兆円・7.9%との比較):一般会計2012年度歳出予算案90.3兆に占める比率「文教及び科学振興・5.4兆6.0%」「防衛・4.7兆5.2%」「公共事業・4.6兆5.1%」「社会保障・26.4兆29.2%」=金利が上昇すれば社会保障費を直撃する

T 税制改革に対する見解

(1)素案の税制改革に関する連合の評価
 連合は一体改革素案の税制改革について、以下のように評価している。

 @社会保障の安定財源を確保するため消費税を引き上げ、社会保障4経費(年金・医療・介護・少子化対策)等に全額充当すること。A消費税の逆進性対策として2015年度以降の番号制の導入を念頭に給付つき税額控除等の施策を導入すること。B税による所得再分配を強化するため、所得税や相続税の累進性を強めること――などが盛り込まれた点は評価できる。
 一方、消費税に係るインボイス方式導入が見送られ、免税点、簡易課税制度が抜本的に見直されなかったことは遺憾である。
 また、今後の法案化に向け、経済状況等により引き上げ停止を含む柔軟な措置がとれる。仕組みや個別間接税のあり方等を明確にしていく必要がある。

(2)素案の税制改革に関する退職者連合の評価

@所得税・相続税等
 素案が所得再分配を強化するための所得税・相続税の累進性強化を提起していることは方向として評価するが、増収水準として妥当であるかは更に検討が必要である。他方、資産課税である株式譲渡益・配当に対する課税は本則20%に戻すとするにとどめており、上げ幅が不十分である。

(カコミ部分は、素案の関連部分からの引用 )
 2.個人所得課税
 現行の所得税の税率構造に加えて、課税所得5,000 万円超について45%の税率を設ける。
 (注)上記の改正は、平成27年分の所得税から適用する。
  *現在の最高税率は1800万円超40%

 3.資産課税
 @相続税の課税ベース及び税率構造について、次の見直しを行う。
 イ. 相続税の基礎控除(定額控除現行5000万円を3000万円に、法定相続人比例控除現行 1000万円×人数を600万円×人数に)
 ロ. 死亡保険金に係る非課税限度(略)
 ハ. 相続税の税率構造(1億円以下30%までは現行どおり、2億円以下40%〜6億円超55%までの刻みで税率引き上げ)
 (以下略)

 3)金融所得課税
 金融所得課税については、金融所得間の課税方式の均衡化と損益通算範囲の拡大を柱とする、金融所得課税の一体化に向けた取組を進める必要がある。
 また、高額な譲渡所得等を得ている者に軽減税率が適用されることが問題である、との指摘もある。
 こうした点を踏まえ、現行法令どおり、上場株式の配当・譲渡所得等に係る10%軽減税率を平成26 年1月から20%の本則税率とする措置並びに・・・・(以下略)

A消費税
 消費税については、段階的に引き上げ、これを国・自治体の社会保障四経費(年金・介護・医療・子育て)に充てるとしている。
 消費税の検討に当たっては次の点が考慮されるべきである。(下線は、私鉄高退協)
(ア) 消費税を社会保障目的の区分経理で管理するべきである。
(素案では「使途は予算等で明確化」するという表現に止まっている。消費税収が社会保障に要する税負担総額より低い間は、消費税収分が他の財源を社会保障費の外に押し出す優先的充当に止まる。)

(イ) 目的達成に必要な財源額とその調達の全体計画を示して国民の理解を得るべきである。(計5%の消費税引き上げは、成案では「一里塚」、素案では「第一歩」とされており、全体像は示されていない。かつ、実現見通しのない「新年金制度創設」の必要財源等を持ち出すことで、政局がらみの論議を惹き起こして冷静な財源検討を遠ざけている。)

(ウ) 現行消費税の制度的弱点を是正すべきである。
*逆進性対策としての給付つき税額控除は、実現すれば前進と考えられる。
*インボイス方式は今回導入しないとしていること、免税点・簡易課税制度は存続し運用見直しに止まっていることは不十分である。
*税を適正に価格転嫁しないと下請けが値引きを強要される。素案に示されている施策は下請け関係の現実的力学を変えるに至らない建前に止まっており不十分である。

 編注:インボイス方式=仕送り状方式ともいいEU諸国でも採用されている方式。付加課税の申告書を仕入れの時に売主側から受け取った税抜きの売り上げ金額と税額を明記したものを税務当局に提出する。それにより仕入れた時に発生した金額が売り上げ高に課税された税額から控除することができる。付加価値税や法人税、所得税の脱税を監視するために、税務当局は事業者から提出された、各仕送り状を事業者ごとに名を寄せる(一本化すること)。

(エ) 自治体の必要財源を確保するべきである。当面国・自治体協議が一定の到達点に達したことは意義がある。

(オ) 経済状況への影響を配慮するべきである。

 @ 税収の使途
 消費税の収入については、別に法律で定めるところによるほか、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする。
 (注1)上記の改正は、平成26 年4月1日から適用する。
 (注2)消費税収(国分)の使途については、予算等において明確化することとし、その具体的な方法については引き続き検討を行う。

 A 税率の引上げ
 消費税の税率を次のとおり引き上げる。
 イ 2014年4月1日  6.3%(地方消費税1.7%<消費税額の17/63>と合せて8%)
 ロ 2015年10月1日  7.8%(地方消費税2.2%<消費税額の22/78>と合せて10%)

 B 課税の適正化
 イ 事業者免税点制度
 (イ) 資本金1,000 万円未満の新設法人に関する免税点制度について、5億円超の課税売上高を有する事業者が直接又は間接に支配する法人(親族、関連会社等を含めた資本の持分比率が50%超の会社)を設立した場合については、当該設立された法人の設立当初2 年間については、課税事業者とするなど現行の資本金1,000 万円以上の新設法人に対す る措置と同様の措置を講じる。
 (ロ) (イ)に該当することとなった場合の届出書の提出などについて所要の措置を講じる。
 (注)上記の改正は、平成26 年4月1日以後に設立される法人について適用する。

 ロ 簡易課税制度
  簡易課税制度のみなし仕入率については、今般、同制度に関する実態調査を行ったところ、業種によっては、みなし仕入率の水準が実際の仕入率を大幅に上回っている状況にあることが確認された。今後、更なる実態調査を行い、その結果も踏まえた上で、みなし仕入率の水準について必要な見直しを行うものとする。

 ハ 中間申告制度(略)

B公的年金控除・老年者控除
 素案は高齢者・年金に関する税制について、次のように提起した。税の応能負担に異論はないが、年金受給者の公的年金控除・老年者控除を復元するというマニフェストは履行されていないだけではなく、逆方向を疑わせる。この状況に加えて年金の物価特例水準の段階解消を先行させようとしており、政府・与党の信義が問われている。
 (5)高齢者・年金に関する税制
 高齢者の中でも、企業年金を含めて比較的高い年金収入を得ている方や、給与を得ながら年金を得ている方もいるなど、その態様は様々であり、高齢者であっても経済力のある方にはそれに見合った負担を求め、世代内の公平性を確保する必要がある。
 また、年金受給者は給与所得者に比べて、課税最低限が高いなど税制上優遇されている状況であり、世代間の公平性の確保も必要である。
 こうした観点から、例えば年金収入に応じて控除額が増加していく現行の公的年金等控 除について、その仕組みを見直すなど、種々の方策を検討する必要がある。
 また、老年者控除の復活に係る議論や、配偶者控除の見直しと年金課税との関係、「年金所得」を独立させるなど所得区分の見直しの議論等について、併せて検討を行っていく。
 このような年金課税のあり方については、年金の給付水準や負担のあり方など、年金制度そのものと密接に関連する問題であり、今後の年金制度改革の方向性も踏まえた上で、見直していく。


C一体改革と消費税
社会保障給付・サービスの設計内容によって、所要財源が変わり、必要税率も変わる。
素案で示された制度改革案については、「新たな年金制度創設」をはじめ退職者連合として受け入れがたい部分がある。また、総選挙マニフェストに記載された公的年金控除・老年者控除の復元がなされないまま、増税・給付削減・負担増が提起されることには当事者として不信・不満がある。
先述した社会保障と財政についての基本認識にたって、一体改革の大きな方向性については連合と見解を共有する。
しかし、素案の消費税制については、その具体的前提が不十分なこと、政府与党の信頼・信義に疑問があることから今後、@社会保障制度改革の到達点、A財政収支の全体計画、B公約実現、C消費税制度検討課題の進展状況等をみて、総合的に判断する。
 同時に、引き続き公的年金等控除・老年者控除復元の運動を進める。

 U 医療・介護に対する見解

1. 医療
(1)後期高齢者医療制度廃止
 素案は高齢者医療制度について次のように提起した。遅きに失したとはいえ、退職者連合の主張と一致している。
 取り扱いについて「関係者の理解を得た上で」と記載されていることが示すように、改革会議の取りまとめの「国保財政運営主体の都道府県化」に対して知事会が、「支援金の総報酬割り」に対して経営者団体が、制度変更そのものに自公が抵抗しており、実現は平坦ではないと思われる。最重点で実現をめざす。
(素案から引用)
 
(4)高齢者医療制度の見直し
 ○ 高齢者医療制度改革会議のとりまとめ等を踏まえ、高齢者医療制度の見直しを行う。
 ○ 高齢者医療の支援金を各被用者保険者の総報酬に応じた負担とする措置について検討する。
 (注)現在は、平成24 年度までの特例として、支援金の3分の1を総報酬に応じた負担とする措置が講じられるとともに、併せて、協会けんぽに対する国庫補助率を13%か16.4%とする措置が講じられている。
 ☆ 具体的内容について、関係者の理解を得た上で、平成24 年通常国会に後期高齢者医療制度廃止に向けた見直しのための法案を提出する。
 ○ 70 歳以上75 歳未満の方の患者負担について、世代間の公平を図る観点から、見直しを検討する。
 (注)患者負担は、69 歳までは3 割、70 歳以上75 歳未満は2 割、75 歳以上は1 割と、年齢に応じた負担割合を設定しているが、70 歳以上75 歳未満については、毎年度、約2千億円の予算措置により1割負担に凍結されている。
 ☆ 平成24 年度は予算措置を継続するが、平成25 年度以降の取扱いは平成25 年度の予算編成過程で検討する。

*これに関連して検討された70〜75歳患者負担の本則化(1割に凍結している経過措置を本則の2割にする)は先送りされ、平成25年度予算編成過程で改めて検討となった。

(2)国保財政基盤強化
 素案は国保財政基盤強化について次のように提起した。退職者連合の主張と一致している。
 具体的内容に注目し、速やかな実現をめざす。

 (1)市町村国保の低所得者保険料軽減の拡充など財政基盤の強化と財政運営の都道府県単位化
 ○ 低所得者保険料軽減の拡充や保険者支援分の拡充等により、財政基盤を強化する。併せて、都道府県単位の共同事業について、事業対象をすべての医療費に拡大する。
 ☆ 財政基盤の強化については、「国民健康保険制度の基盤強化に関する国と地方の協議」において、具体的内容について検討し、税制抜本改革とともに実施する。
 ☆「平成24 年度以降の子どものための手当等の取扱いについて」(平成23年12 月20 日付け4大臣合意)の事項については、「国民健康保険制度の基盤強化に関する国と地方の協議」において協議した上で、必要な法案を平成24 年通常国会に提出する。
(3)短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大
素案は短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大について、次のように提起した。医療保険・年金保険共通で短時間労働者への適用拡大は重要かつ緊急の課題である。政府が想定している狭い拡大範囲と、負担を嫌う企業への過剰な配慮は、腰が引けた対応といわざるを得ない。抜本的拡大を求める。

 ○ 4.U(6)の短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大に併せ、被用者保険の適用拡大を実施する。
 ☆ 被用者保険の適用対象となる者の具体的範囲、短時間労働者が多く就業する企業への影響に対する配慮等の具体的制度設計について、適用拡大が労働者に与える影響や雇用への影響にも留意しつつ、実施時期も含め検討する。平成24 年通常国会への法案提出に向けて、関係者の意見を聴きながら検討する。

(4)長期高額医療の高額療養費の見直しと給付の重点化
 素案は高額療養費について、次のように提起した。当初見合い財源として構想した「外来一律100円負担」が強い反撥により挫折したため、規模を縮小して実施しようとするもの。年間負担上限導入自体は退職者連合の主張と一致しており、具体的内容に注目しつつ実現を求める。

 (3)長期高額医療の高額療養費の見直しと給付の重点化の検討
 ○ 高額療養費については、制度の持続可能性の観点から、高額療養費を保険者が共同で支え合う仕組みや給付の重点化を通じて、高額療養費の改善に必要な財源と方策を検討する必要がある。
 ○ 他方、こうした抜本的な見直しまでの間も、高額な医療費の負担を少しでも改善することが必要である。
このため、平成24 年4 月からの外来現物給付化に引き続き、まずは年間での負担上限等を設けることについて、所要の財源を確保した上で、導入することを目指す。その際、年収300万円以下程度の所得が低い方に特に配慮する。

(5)2012年診療報酬改定
 素案は2012年診療報酬改定について、抽象的な二つの重点課題と四つの視点を提起するに止まった。素案検討と平行して進んでいる中医協では具体的到達点として、「救急・産科・小児・外科等の急性期医療に係る病院勤務医の負担軽減・処遇改善、在宅医療の充実」に診療報酬の配分を重点化するとし、診療報酬本体は+1.38%、薬価等は△1.38%とした。方向としては退職者連合と一致するが、報酬本体の引き上げ幅は小さすぎて、医療従事者の立ち去り型サボタージュ(注)を防ぐには至らないのではないかと危惧される。

 編注:医療現場での過酷な労働条件と過大な責任、患者からのクレームによって労働意欲を失い、医師や看護師が医療機関を離れることを指す。

2. 介護
(1) 介護サービスの提供体制の効率化・重点化と機能強化
素案は介護サービスの提供体制の効率化・重点化と機能強化について地域包括ケアシステムを構築するとし、具体的には次の事項を挙げた。これらは基本的には利用者の権利保障につながる取り組みとして推進すべきである。
 しかし、素案検討と平行して進んだ社会保障審議会介護保険部会・介護給付費分科会の議論では、退職者連合の主張とは異なる到達点もあり、素案の具体化が何を指すか見極めたうえで引き続き意見反映する必要がある。
 例えば素案の言葉からは読み取りにくいが、介護給付費分科会では退職者連合が当面存続を主張した介護職員処遇改善交付金を廃止し、介護保険内の加算に切り替えるとしている(労働者に分配されない事態を避けるため、当面異例のひも付き加算とされた。保険内化されるため保険料・利用者1割負担にハネかえる)。

 抄録 <居宅生活の限界点を高めるための24 時間対応の訪問サービス><小規模多機能型サービス充実><サービス付き高齢者住宅充実><自立した高齢者の社会参加が活発化する介護予防推進><生活期のリハビリテーション充実><ケアマネジメントの機能強化><在宅要介護者に対する医療サービス確保><他制度、多職種のチームケア推進><小規模多機能型サービスと訪問看護の複合型サービス提供><退院時・入院時の連携強化や地域における必要な医療サービス提供><認知症に対応するケアモデルの構築や地域密着型サービスの強化>< 市民後見人の育成など権利擁護の推進>
 ☆ これを推進するため 改正介護保険法の施行、介護報酬及び診療報酬改定、補助金等の予算措置等を実施。
 *平成24年度の介護報酬改定の考え方
 <地域包括ケアシステム基盤強化>< 医療と介護の役割分担・連携強化><認知症にふさわしいサービスの提供><質の高い介護サービスの確保><処遇改善等を通じた介護人材の確保>

(2) 給付の重点化・低所得対策
 素案は給付の重点化・低所得対策について、次のように提起した。低所得者保険料軽減強化と介護納付金総報酬割導入は、いずれも応能負担原則にかなうもので推進されるべきである。
 給付の重点化・効率化として提起される事項は、介護給付費分科会で激論となったいくつかの課題と関連していると思われるので、具体化を見極めたうえで引き続き意見反映する必要がある。
 例えば素案の言葉からは読み取りにくいが、介護報酬について退職者連合の主張と正反対に生活援助サービスの単位時間を60分から45分に短縮し、かつ単価を下げることで軽度者に対するサービスを削ろうとしている。

 <介護1号保険料の低所得者保険料軽減強化>
 今後の高齢化の進行に伴う保険料水準の上昇や消費税引上げに伴う低所得者対策強化の観点を踏まえ、公費を投入することにより、65 歳以上の加入者の保険料(1号保険料)の低所得者軽減を強化する。
 ☆ 具体的内容について検討する。税制抜本改革とともに、平成24 年通常国会への法案提出に向けて、関係者の意見を聴きながら検討する。

 <介護納付金の総報酬割導入等>
 今後の急速な高齢化の進行に伴って増加する介護費用を公平に負担する観点から、介護納付金の負担を医療保険者の総報酬に応じた按分方法とすること(総報酬割の導入)を検討する。
 また、現役世代に負担を求める場合には、負担の公平性などの観点に立ち、一定以上の所得者の利用者負担の在り方など給付の重点化についても検討する。
 (注)現行は、介護納付金は各医療保険の40〜64 歳の加入者数に応じて按分されている。
 ☆ 平成24 年通常国会への法案提出に向けて、関係者の意見を聴きながら検討する。

 <その他介護保険の対応>
 *軽度者に対する機能訓練等重度化予防に効果のある給付への重点化の観点から、平成24年度介護報酬改定において対応する。
 *第6期の介護保険事業計画(平成27 年度〜平成29 年度)の施行も念頭に、介護保険制度の給付の重点化・効率化とともに、予防給付の内容・方法の見直し、自立支援型のケアマネジメントの実現に向けた制度的対応を検討する。

V 年金制度改革に対する見解

 素案では、野党との議論を視野に入れていることから多くの課題についてその方向性を示すに止まっている。現段階では、年金受給者に係わる課題に焦点をあてて退職者連合としての見解を整理し、その実現に努めることとする。

1.「新しい年金制度の創設」の問題点
 成案で事実上棚上げされた「新しい年金制度の創設」は、その後の民主党議員の強い主張により素案では「国民的な合意に向けた議論や環境整備を進め、平成25年の国会に法案を提出する」と記された。
 6900万人の被保険者、3700万人の受給者を持つ公的年金制度を変更しようとするときは、関係者のそれぞれに対する影響を見極めて設計し、合意形成を図らなければならない。
 提起された@「職種を問わず全ての人が加入する社会保険方式の所得比例年金」、A「税を財源とする最低保障年金」――は基本的な具体像がないうえ、制度としての問題があり、実現可能性を欠いている。

 <現在の国民年金加入者2000万人の所得比例年金加入>
 @「2割5分程度の自営業・家族従業者」の保険料徴収とその基礎となる所得捕捉には困難がある。かつ被用者年金事業主負担相当額を含む新たな保険料負担に合意を得ることは困難(必要な者は既に国民年金基金を活用)、A「3割程度の無職」は保険料負担困難、B「4割程度の被用者」は本来被用者年金が適用されるべき、C新設したとして、それ以前の拠出履歴の差・積立金の扱い・制度移行管理に大きな困難。

 <税を財源とする最低保障年金>
 @企業負担の家計転嫁、A60年を超える長期の移行期間、そのコストとリスク、B既裁定者は保険料の二重払い、C限られた税収は社会保険方式で安定している年金に用いず、医療・介護・教育・保育等に優先充当すべき。
 これらを考慮して「新しい年金制度の創設」は一旦撤回して、冷静な制度検討の場を設けるべきである。

 2.基礎年金国庫負担2分の1の恒久化
 素案では、年金財政の持続可能性の確保のため、税制抜本改革により確保される安定財源により、基礎年金国庫負担2分の1を恒久化するとしている。
 基礎年金の国庫負担は、09年度に36.5%から50%に引き上げ、その財源(年2.6兆円)は消費増税による税収を充てることになっていた。だが、増税への提案をしないまま、11年度までの3年間は特別会計の剰余金などいわゆる「埋蔵金」で充当してきた。そして、12年度以降への対応策として政府は消費税引き上げまでの「つなぎ策」として「年金交付国債」(仮称)を発行することにしている。
 基礎年金の国庫負担2分の1の投入は法に定められたものであり、政府の責任による財源の安定確保を強く求めたい。

 3.最低保障機能の強化=低所得者への加算・受給資格期間の短縮
 素案では、年金制度の最低保障機能の強化を図り、高齢者等の生活の安定を図るため、低所得者への加算や、将来の無年金者の発生を抑制していく観点から、受給資格期間を、現在の25年から10年に短縮するとしている。
 その具体的手法として、基礎年金の平均受給月額5万4000円と、民主党が掲げる最低保障年金7万円の差額1万6000円を年収65万円未満の受給者に毎月一律加算することを検討していた。
 しかし、これでは意図的に負担を逃れるため保険料負担申請をしない者、払いたくても払えない者が同じ扱いとなり、不公平が生じる。そのため、保険料未納期間に応じて加算額を増減する案も浮上しているものの、未だ方向が定まっていない。

 低所得・低年金の高齢者に何らかの社会的支援措置は講じるべきだが、それを社会保険である年金で実施することには問題があり、別途の施策で対応すべきである。
また、受給権を得る最低期間を10年にすれば、低年金者を大量に生み出すことが懸念される。加えて、それへの対策として基礎年金を加算することになれば、保険料を払い続けた者との公平性がとれない。現行年金制度には保険料免除制があり、支払いが困難になれば全額免除、4分の3免除、半額免除、4分の1免除がある。免除期間は受給権の資格期間となり、40年間免除でも国庫負担分の基礎年金は支給される。期間を短縮することより、免除制度の徹底こそ優先されるべき課題と考える。

 4.高所得者の年金給付の見直し
 素案では、最低保障機能の強化策と併せて、高所得者の老齢基礎年金について、その一部(国庫負担相当額まで)を調整する制度を創設するとしている。具体的には、年収1000万円の者から段階的に減らし、年収1500万円以上の者には基礎年金のうちの国庫負担分を支給しないことにするとしている。
 本制度は低所得者層への対策と併せて実施するとしており、そのためのクローバック(所得に応じて基礎年金を減額する)は、理解できる。素案の対象者である年収1000万円以上の受給者は全体の0.6%、これで圧縮できる額は450億円といわれる。かつて、自民党政権下で年収600万円以上からの減額なら4000億円を工面できるという試算をした経緯がある。クローバックの基準については制度目的と受給者の納得を総合的に考慮して具体化すべきである。

 5.短時間労働者に対する厚生年金の適用拡大
 素案では、働き方に中立的な制度を目指し、かつ、現在国民年金に加入している非正規雇用者の将来の年金権を確立するため、厚生年金適用事業所で雇用される短時間労働者について、厚生年金の適用を拡大するとしている。
 年金制度を持続可能なものにし、短時間労働者にも安定した年金を保証するためには、全ての被用者を被用者年金の加入者とすることが必要である。問題は年金加入と同時に医療保険・介護保険料にも加入することになるため、人件費としての保険料事業主負担を逃れたい経営側の強い抵抗があり、これまでは限定的加入に止まってきた。事業者は人を雇用する以上、社会保険にただ乗りすることは許されないことを銘記すべきである。
 一方、短時間労働者の年金・医療・介護保険加入をはかる場合、収入の絶対額が低く標準報酬から算出される保険料負担が困難な場合が想定される。これに対しては「所得比例保険料を雇用主負担のみ徴収し、この期間については基礎年金+2分の1所得比例年金」とするなどの施策を検討すべきではないか (参考:ドイツ僅少労働制年金)。

 6.物価スライド特例分の解消
 素案では、かつて特例法でマイナスの物価スライドを行わず年金を据え置いたこと等により、2.5%、本来の年金額より高い水準の年金を支給している措置について、早急に計画的な解消を図るとしている。具体的には、平成24年度(△0.9)25年度(△0.8)26年度(△0.8)3年間で解消し、平成24年度は10月から実施するとしている。(仮にこれが実施されれば、平成24年度は前年度物価下落による△0.3%+物価特例解消△0.9% 計△1.2%になる)
 一般的に年金額は物価スライドすべきであり、本来水準と実水準の差が長期に存在するのは不自然ではある。しかし、特例水準は、デフレ下での年金受給者の厳しい生活状況に配慮して全政党が一致して取り扱いを決めたものであり、その解消は物価上昇時に調整することになっている。今日の経済状況は、取り扱い決定時にも増して厳しく、全政党一致の決定事項に鑑み守られるべきと考える。

 7.マクロ経済スライドの検討
 素案では、デフレ経済下においては、現行のマクロ経済スライドの方法による年金財政安定化策は機能を発揮できないことを踏まえ、世代間公平の確保及び年金財政の安定化の観点から、デフレ経済下におけるマクロ経済スライドのあり方について見直しを検討するとしている。また、その実施については、物価スライド特例分の解消の状況も踏まえながら、引き続き検討するとしている。
 賦課方式の年金制度である以上、保険料を負担する被保険者数やその賃金水準とかけ離れた支給水準は考えられない。そのため、マクロ経済スライドは負担と給付水準をバランスさせるための一つの手法と考える。しかし、この制度はデフレ下での発動を想定しておらず、特に名目年金額の引き下げに及ぶ見直しは、受給者団体として受け入れられない。

 8.在職老齢年金の見直し
 素案では、勤労意欲を抑制しているのではないかとの指摘がある60歳代前半の者に係る在職老齢年金制度について、調整を行う限度額を引き上げる見直しを引き続き検討するとしている。
 在職老齢年金について、60歳代前半の者に関わる調整限度額を60歳代後半の者と同じように引き上げようとするものであり、社会参加として就労を希望する高齢者にとっては歓迎すべき内容と考える。但し、財源は保険料であるため、その負担に理解を得ることが条件と考える。

 9. 被用者年金一元化
 素案では、共済年金制度を厚生年金制度に合わせる方向を基本として被用者年金を一元化する、このため、平成19年の法案をベースに関係省庁で調整の上法案を提出するとしている。
 平成19年の法案は、連合・退職者団体が一部の問題点を指摘しつつ、基本的な方向は了解するとの見解で対処してきたことに対し、国会では民主党の反対で一度も審議されることなく廃案となった。公正で普遍的な年金とするため、被用者年金の一元化を急ぐべきである。
 なお、法案に向けた調整にあたっては、前回検討で課題となった@「追加給付」は、共済年金発足以前の雇用主責任である旧恩給の支払いを代行しているにすぎず、年金制度における官民比較とは別次元の課題であることから、一元化とは関連づけないこと、A「共済年金の職域部分」を廃止するにあたっては、多くの民間企業で実施されている企業年金の実態を調査し、官民均衡の新制度を作ること、に留意して検討すべきである。
以上
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