●高齢研学習会報告


介護現場から見た介護保険制度の問題点

報告者/日本ホームヘルパー協会副会長
田中 典子

  2011年11月14日、社会文化会館で高齢者問題研究会が8回目の学習会を開いた。講師・問題提起者は、日本ヘルパー協会の田中典子さん。以下は、報告の概要だが、文責は井田隆重が負う。

あゆみ
 日本ホームヘルパー協会は、ホームヘルパー相互の連携と職務能力の向上、処遇の改善等を目指す職能団体として、1972(昭和47)年に設立されました。
 設立当初は「日本家庭奉仕員協会」として結成されましたが、平成3年4月1日に「日本ホームヘルパー協会」と名称変更し、平成19年12月に設立35周年を迎えました。
 35年の歴史の中で、介護サービスにかかる諸制度、ホームヘルパー養成研修のあり方は大きく変革を遂げ、ホームヘルパーに求められる介護サービスの内容、質について問われるようになってきました。
 当協会は設立以来、一貫して、ホームヘルパーの育成を通じ、利用者のより良い生活と自立支援の実現を目指し、各種研修会の開催を行い、研鑽を重ねてまいりました。また、ホームヘルパーが働きやすい環境の実現に向け、ホームヘルパーを巡る実態調査や行政への提言等、その目的の実現に向けて活動を続けております。

協会の理念・目的
 日本ホームヘルパー協会は、訪問介護業務に携わる者(訪問介護員養成研修修了者、介護職員基礎研修修了者、介護福祉士等)が、専門職としての知識・技能を高めることにより、質の高い訪問介護サービスを提供し、もって高齢者・障害者(児)等の自立した日常生活の継続に寄与することを理念としています。
 また、訪問介護業務に携わる者同士、さらに関係職種との相互連携を深めることにより、情報交流を図り、業務の円滑な遂行や業務における問題解決に資することを目的としています。
 このような自らの研鑽によって福祉が向上し、それが結果的に、訪問介護業務や訪問介護員の社会的評価の向上、処遇及び環境改善につながること、それが私たちの積年の思いです。

いま、機能がぐちゃぐちゃに
 現在、審議中の社保審(社会保障審議会の略称)の介護給付費分科会で、保険費用の削減を目的に、相変わらず「要支援〜要介護1、2へのサービスを外せ」との声も強くなっています。要支援とは、要介護状態ではないので、介護保険にはなじまない≠ニの解釈もあるのです。
 いま保険者(介護利用者)には、「日常品の買い物」「日常の掃除」「同居」等の定義を細かくするなどして、保険給付できない項目を増やす傾向があり、サービス時間単位も60〜90分から45分へと、削減するに至っています。
本当に、サービス除外? そんなことができるのでしょうか。そうしたサービスは不要なのでしょうか。この夏、日本ヘルパー協会は、サービス提供責任者・ヘルパーに緊急調査を行いました。
 その結果は、「軽度」の人びとの暮らしは、実際どうなのだろうか・・・・を浮き彫りにしました。介護保険上では「軽度」と認定された方々でも、その暮らしの中に如何に動き≠とり入れていくのかが課題であり、生活再建が求められているのです。
 そのためには、ご本人自身が自分の暮らしを振り返って、自分で生活する力≠つくりだす意欲の創出が必要です。ヘルパー職は、(ご本人が)その気になってもらうよう、側面から支援する任務があるのですが、生活不活発状態からの脱出は、容易なことではありません。
 
 くらし(生活)には、自分自身の管理能力が必要です。調査結果を見ると、必要な支援・介護の度合(要支援1〜要介護2)によって、求められる生活支援領域(6領域=A:衣・B:食・C:住・D:体・E:心・F:家族社会関係)が変化していることが分かります。
 衣の領域を詳しく分けると、「@汚れ・清潔・洗濯」「A整理」「B着替えの用意」「C着脱衣」の4項目となります。
 注目したいのは、「E 心の健康」と「F 家族・社会関係」が変動していることです。不安定なのです。
 くらしは、小さなつまずきでも、大きな影響力をもつ物があります。くらしの崩れを未然に防ぐポイントとして、これらの領域に注目しています。

高齢社会が変わった
 国立長寿医療センター研究所所長の鈴木隆雄先生は、疫病のあり方や死亡構造の変化と高齢者の健康度の変化に、特に注目しています。病気を予防したり治療することと、生活機能の低下をいかに予防し、低下した人をいかにケアしていくかということの潮目に、非常に混乱がみられる、というのです。
 なんとしても、生活機能の低下をいかに防ぐか――ここに焦点を当てることを強調しています。
 
上の二つの表から、高齢社会のバックグラウンドをみることができます。
 1970年の65歳以上の老年人口は、7%でした。それが1996年には2倍の14%を超え、2006年には20%を超えています。2009年では22.7%と足(あし)早(ばや)のテンポです。
 
  人間の限界寿命は110歳から115歳といわれています。死亡率のカーブは、100歳ぐらいから急にあがります。
 高齢者の若返りは、素晴らしいものがあります。握力・バランス・歩行速度を、1992年と2002年の平均値で見てみると、握力は男性で4歳、女性で10歳。バランスでは男性4歳、女性3歳。歩く速度は男女とも11歳も若返っています。わずか10年で、猛烈な若返りです。歩行者用信号は、1秒間で1b進む速度で設計するそうですが、高齢者もすいすいと渡っているのです。
 高齢者の死亡原因の第一は、脳卒中といわれていますが、昔はその病気になると、直ぐに亡くなっていました。しかし今は容易には亡くならない。発症率は変わらないのに、医療技術が良くなったこと、アルブミン値が高くなって、血管が強くなった――などで、要介護のダンゴ状態にもなっています。
 脳卒中の危険因子は、血圧に対するリスク管理がうまくいくようになって、減っています。しかしコレステロールのリスクは増えている。死亡率は完璧に低くなっているのに、麻痺が残っているけれど亡くならない方が増えている。疾病対策より、介護対策のほうが重要といえます。
 ここに、介護予防の重要性が明らかになってきました。
1.死亡率は下がったけれども発生率が下がっていないため、発症して要介護状態になっていくことが想定される。
2.今後一段と発生率を下げていくことが求められる。
3.高齢期になっても、不健康にならない。
4.要介護の状態になるところを、病気と同じように、早く見つけて早く治す。あるいは、早く対応する。

老年症候群の早期発見、早期対応――生きる力/明日への希望
  一般に、中年期では「生活習慣病」の予防が欠かせません。がん・心臓病・脳卒中・糖尿病にならぬよう、早期発見・早期治療が必要です。
 それが高齢期になると、「老年症候群」の予防がまず必要となります。
 生活機能・転倒・認知症、鬱(うつ)・閉じこもり・足のトラブル・尿失禁・口腔機能・低栄養――の予防です。生活不具合の早期発見、早期対応です(図)。言葉を換えれば、「生きる力」「明日への希望」ということです。
老年症候群としていくつかの項目を挙げましたが、これらは自分の努力で、ほとんどある程度、予防していくことができるのです。
 わたしは、高齢期で、しかも介護を受ける状態になると、がんとか心臓病よりも、恐ろしい誤飲性、誤嚥性肺炎を警戒します。死亡理由に「肺炎」とされるほとんどが、この誤嚥性肺炎といえます。
 誤嚥性肺炎は、若い時は絶対に起きません。口の機能――中でもベロ(舌)、ものを噛む機能、ものを飲み込む喉頭の機能、この筋肉が、年齢によってへたっていくことによって起こるのです。サルコペニア「筋力がほとんど無くなってしまう現象」によって、ものがうまく飲み込めない。間違って、(食道へでなく)気道に入ってしまう。一番恐ろしいのは、夜中に汚い唾液を飲み込んで、肺に入って肺炎を起こすことです。
 口腔の筋肉の働きが弱くなったかどうか、どうやったら判るのでしょか。鏡を見て下さい。昔に比べてほほ(頬)骨が出たと感じた人は、咀嚼(そしゃく)筋が完全に落ちているのです。ほほ骨の上にあるのが咬筋。上の筋肉と下の筋肉を、もう一回、戻す必要があります。それには、食べる・喋る――が効果あり、です。
 ベロの動きが悪くなったら、「タパカラ体操」というのがあります。
 タ・・・・ベロを挟んで出す音
 パ・・・・破裂(はれつ)音
 カ・・・・摩擦(まさつ)音
 ラ・・・・巻き舌音
 生活機能の低下がないかどういか、みていくことが必要です。ヘルパー講習でもいうのですが、リスクのある方には、そのリスクを改善する取り組みをしていただくよう、強調しています。
 外に出ましょう。「用がないから外に出ない」なんていわせず、「用は自分で作るもの」ということです。栄養改善教室や男の料理教室なども繁盛していますね。

 97歳になる女医さんの、老いの体験記を紹介します。(2000年9月6日(日)日本経済新聞)

老い≠めぐる議論は多々あるが、当事者である高齢者が、議論の輪に加わることはない。実際に老いていく時にはどんな心構えが必要で、どんな変化が現れるのか。老年医学の研究者でもある前至誠会第二病院長三神美和(96)さんに、自身の体験をもとに報告してもらった。
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 90歳で医療の第一線から完全に退いた。・・・・独り暮らしの中で、自らの老い≠ニ向き合っている。・・・・私が日常、特に心がけている点を挙げるとすれば、第一は「他人に頼らず、自立して生きて行くこと」だ。他人に依存しすぎると生活が後ろ向きになる。・・・・
 朝は6時半までに起床し、布団を上げる。これがちょっとした体力チェックになる。体の弾みをつけて布団を持ち上げられるうちは独りでも大丈夫だ。この後きちんと身支度をし、食事の支度や家の外の掃除をする。・・・・
 体がなまらないように月に数回は電車で都心に出かけ、有名ホテル特性のイギリスパンなどを買いに行く。・・・・
 老人は甘えないことが大切である。どんなに社会的介助の態勢が整ってきても、それに甘えてしまったら、かえって老け込みになる。・・・・若い世代には過保護にならない配慮をして欲しい・・・・。
  
「お世話」から自立支援へ
 今後の高齢者介護の基本理念は、高齢者が自らの意思に基づき、自立した質の高い生活を送ることができるよりに支援すること、つまり『高齢者の自立支援』です。従来の高齢者介護は、どちらかといえぱ、高齢者の身体を清潔に保ち、食事や入洛等の面倒をみる――といった「お世話」の面にとどまりがちでした。今後は、重度の障害を有する高齢者であっても、例えば、車椅子で外出し、好きな:買い物ができ、友人に会い、地域社会の一員として様々な活動に参加するなど、自分の生活を楽しむことができるような、自立した生活の実現を積極的に支援することが、介護の基本理念として置かれるべきだと考えます。

わたしたちの悩み
 したがって、新介護システムは、こうした基本理念を踏まえ、@予防とリハビリテーションの重視、A高齢者自身による選択、B在宅ケアの推進、C利用者本位のサーピス提供、D社会連帯による支え合い、E介護基盤の整備、F重層的で効率的なジスデム――を基本的な考え方とすることが求められます。
 しかしながら、サービス提供責任者の現状と悩みは、とても大きなものがあります。
 サービス提供責任者とは、ケアマネジャーと同様、介護保険制度発足により誕生した新しいポストであり、訪問介護の要(かなめ)として設計されました。
 両者共に、従来ホームヘルパー職に包括されていた任務をより明確に機能化させて、介護保険の目的を意図的に推進させるために設けられたポストだとも言えます。
 介護保険開始後10数年を経た今、このサービス提供責任者の悩みは大きく深いのです。「訪問介護の目的を利用者、ホームヘルパー、ケアマネジャーに理解していただけない」「多忙過ぎて自分の職務が何なのか分からなくなる」という声からも分かるように、自分の職務の確立と社会的評価に悪戦苦闘しています。
 人材育成の視点からも課題が大きく、非常勤ヘルパーより離職率が高い傾向に歯止めがかからない上、研修会場からは「新人のサービス提供責任者が目立つ」という指摘もあります。あまりの多忙さに「ケアマネジャーと同じように担当する利用者の上限件数を設定してほしい」という要望もよく挙げられます。しかし、その確定にはサービス提供責任者の業務分析が不可欠であり、まず、自らが現在の業務実態を明示することが求められ、この報告の前半でその一部をお話ししました。
 サービス提供責任者の業務は多岐にわたっており、「自分の任務を果たす時間がない」ことから、現場の悲鳴が起きています。常に滞っていく業務に追われ、ストレスをため込んで、達成感を得られないまま疲れ果てているともいえます。

厚労省へ要望書
 2010年12月、日本ヘルパー協会は厚労省に対し、次のような要望を行いました。介護現場の現状と課題を端的に表しています。

1.サービス提供責任者業務の現状と課題
(1)「担当訪問」と「代行訪問」が総業務時間の30%を超える!
 サービス提供責任者の業務のうち33.8%は日常業務としての「担当訪問」、または登録・パートヘルパー等の業務をカバーする「代行訪問」が占めています。この要因としては、サービス提供責任者の行為に報酬が設定されていないことから、経営の視点から訪問業務以外のサービス提供責任者業務が軽視され、自ら担当を持ち訪問して収入を得ることで経営が成り立っていることが挙げられます。また、訪問介護の現場の7割を占めている登録・パートヘルパーの業務をカバーできる(サービス提供責任者以外の)常勤ヘルパーが圧倒的に不足しています。
(2)運営基準に明記されていない業務が多い!
 事業所に事務処理専門のスタッフを置く余裕がないことから,「実績入力」や「給付管理」等の業務をサービス提供責任者が行っており、総業務時間のうち8.6%と、本来業務よりも多くの時間が取られています。これらを「代行訪問」「担当訪問」と合わせると、全体の時間の約39%を本来業務以外の業務に費やしていることになり、サービスの質を高めるための本来業務に専念しにくくなっています。
(3)生きた訪問介護計画書≠作る時間がない!
 サービス提供責任者は多岐にわたる業務及び多忙さゆえ、意欲はあっても、総業務時間のうち5.8%しか訪問介護計画書関連の書類作成に当てられない現状にあります。次々と生じる仕事に追われ、書類作成が後回しにならざるをえなくなったり、指導監査対策等のための形式的な書類と化し、訪問介護計画書が利用者や担当ヘルパーにとって実質的役割を果たせない状況となっています。
(4)ヘルパーの指導に当たる時間がない!
 サービス提供責任者の業務のうち、運営基準に明記されている「ヘルパー業務の実施状況の把握」は4.7%、「ヘルパー等への研修・技術指導」は6.5%と、訪問目的を達成するために欠かせない業務であるにもかかわらず、多忙さゆえに時間を割けない現状にあります。これにより、管理が作業管理に留まり、利用者の生活意欲の向上等の視点による測定が十分に行えない、担当ヘルパーヘの指導が十分に行えないというのが、サービス提供責任者の悩みの一つとなっています。

2.業務改善に関する具体的要望
要望1 サービス提供責任者の「担当訪問」「代行訪問」に掛かる時間を縮小してください。利用者の生活再建(利用者の心身状態の維持・改善、意欲の引き出し等)に役立つ生きた訪問介護計画書≠フ作成、担当ヘルパーの指導・育成等の本来業務に当たれる時間を確保してください。
 訪問介護計画書に実質的価値が付加されるよう環境整備の推進及び制度の改善をお願いします。
[改善のための具体的要望]
@サービス提供責任者の訪問時間と受け持ち利用者数の上限を設定し、指導してください。
Aケアマネジャー同様、サービス提供責任者が取り扱う1件毎の利用取り扱いについて報酬を設定してください。(訪問介護計画書等の書類作成ならびにヘルパー職への研修・指導等)。
B常勤ヘルパーをまず4割以上配置できるよう、報酬を設定してください。
C事業主及び管理者教育として、以下の点を強化するよう指導してください。
 a.訪問介護の目的
 b.ヘルパーの人材育成の在り方とサ責の役割
 c.サービス提供責任者の熟成への支援
 d.業務運営のあリ方

要望2 サービス提供責任者業務の更なる分析・整理を進め、代替要員やITの活用等による効率化、書類の削減を図ってください。
[改善のための具体的要望]
@サービス提供責任者が利用者の生活再建及びそのための担当ヘルパー職の指導に重きを置いて業務に当たれるよう、運営基準に定めるサービス提供責任者の8つの責務が遂行できるようにしてください。
以上
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