事務局便り


生き生きと安心して暮らせる社会をつくろう

 講師=山田 厚さん(全国労働安全衛生研究会代表)

第25回京成労組退職者の会が、学習交流会をひらいた。( 2020年11月12日)
 講師は、山田 厚さん(全国労働安全衛生研究会代表)。「コロナ災害の政治利用を許すな」と題した貴重な講演だった。




=人災となったコロナ災害=  <講演から抜粋>
 
1、 防疫・公衆衛生・医療が脆弱に

 @ 地域の公衆衛生の拠点である保健所が削減され、1991年に852あったものが、2019年までの18年間にほぼ半減、472に削減され職員も6600人削減されました。

 A そして、全国の病床数は1993年〜2018年までの25年間で305,000床も 削減されています。

 感染症患者を移送する専用車両が無い。感染症病床が1996年の9716床が、2019年までに1758床、18%に激減しました。

 特に自治体病院は2001年から2017年までに133箇所がなくなるなど、1900年代以降の30年の間に、病院・保健所の削減が続き、保健機能が大幅に後退しました。

 B 医療従事者の扱いも劣悪で、人事院規則の危険手当である特殊勤務手当は極めて低く、これまで僅か1日290円。今回コロナ災害で1日4千円としましたが、医療・介護職場への予防衣・手袋・マスク・消毒液の備蓄について、国からの指針・通達・マニュアルはなく、全て現場任せも直接の防疫力を脆弱にしたと言えます

 C さらに感染症に対して脆弱になったのは、社会環境全体を考える必要があります。社会の格差と貧困化です。
 安倍政権になってから国民の生活苦は進みました。社会保障の後退で負担増、消費税増税、年金の実質低下など、明らかに経済的理由による医療の受診抑制傾向が見られます。

 D 同じく大きな要因としては、労働者の無権利と過重労働の実態です。心身の健康不調とその常態化が進んでいます。これらの社会環境の劣化は貧困化であり、このことは国民の免疫力を奪い病気を重篤化させ、感染源を野放しにしてしまいます。

2、感染症対策でも国民の命・健康を脅かした

 @ 早期発見が感染症予防の基本原則ですが、国民からPCR検査を足止めし、医療から国民を遠ざけてきました。この状態が続き検査もしないまま悪化して死亡した人もあり、日本の検査数の不足は国内外で指摘されおり、未だにその水準は極めて低い状態です。

 A「怖くて医者に行けない」「熱があったらいきなりこられては困る」という医療崩壊の状況も作られました。
 
 コロナ感染症以外の体調不調者のいのち・健康を奪うことにもなります。どの医療機関も外来患者など2〜4割減少しています。外来や手術件数が減り、医療機関の減収も続き、病棟の閉鎖、人手不足、看護師解雇、退職が増え始め施設の経営難が深まりましたが、国は「コロナ感染症は災害とは言えない」として経済的援助をしませんでした。

 B 国は感染初期の段階でも、感染症の基本原則である早期隔離・早期入院を行わず、入院治療は重傷者のみとし、安全性が確保されない「自宅療養」もさせています。これでは患者の治療における安全性も公正性もありません。

 C 職場・学校・地域では厚生省・文科省の指導により、「健康診断や安全衛生委員会を停止する」という誤った指導もされています。本来感染症の事態だからこそ健康維持の事業実施が強く求められている時に、逆に「期間停止の指導」をしたのです。

3、一過性の大衆迎合
 @ この半年間の国の感染症対策は、感染防止や医療充実ではなく、もっぱら生活・経済対策でした。一過性で終わる「臨時の給付金」などの繰り返しです。継続性・恒久性がある社会政策ではありません。しかし、誰でもわかり易く反対がむずかいい大衆迎合です。

A 無駄な費用を掛け「政権のありがたみを感じさせる」一過性の「よろこばれる小遣い」的な対策です。

4、憲法の様々な法規定・権利が期間停止された

 @ 緊急事態宣言を受け、裁判所は「感染症対策」として、公判期日の取り消しを行ないました。労働委員会の審理も延長されました。
 
 裁判で早期救済を待ち続ける人たちを無視したことになります。さらに労働問題が大量に発生する事態の中で、権利救済の労働委員会の審理をしないことは間違っています。ここでも感染症を理由とした「法の救済を期間停止」が現れています。

5、コロナの最中でも医療・公衆衛生を壊す計画を中止しない

 @ ようやく公的な医療・介護などへの財政援助が7月から具体化しています。内容は一時的な慰労金や一過性の「臨時の給付金」です。

 経営に対しての財政援助は、主にエクモ装置等高度な医療機器を持つ病院や、第1種感染症病院などの大規模病院です。このコロナ災害で経営が淘汰され「中小の医療・社会保障の経営は廃業・倒産でも構わない」と考えているようです。

 A しかも医療を破壊する今までの計画を中止・是正していない事が問題です。2019年厚労省は公立病院・自治体病院の30%に当たる424病院を統廃合・機能縮小を対象として名指ししています。そのうち48病院が感染症指定機関であり、その感染病床は結核病床を合わせると582病床にもなります。

 B 安倍前首相を議長とする「全世代型社会保障検討会議」の最終報告が年度内に出されます。

 内容は世代間の対立を煽り高齢者の負担増、全体の医療・介護の削減合理化を求めるものですが、政策の停止も是正もされていません。つまりコロナ災害の最中であっても政権側の医療・公衆衛生を壊す中長期の計画に変更はないのです。

 C 一方コロナ災害で労働者の権利が壊され、賃下げや雇止めが進んでいます。テレワークなど新しい労働に対しては、労働法の活用や労働協約・労使協定の締結が必要です。しかし、権利の「期間停止状態」がされ、その多くが一方的に実施されています。労働組合の機能がある職場でも事前協議がないのが実態です。政府は生活・経済対策を掲げての休業補償を言いますが、肝心の解雇、雇止めの停止をしていません。

 D「自己都合退職」「希望退職」も増え、すでに10月段階で600万人以上の労働者が雇用から押し出されていると言われています。

7、コロナ災害を利用し、「新たな体制」を目指す

 @ 大企業と政府は雇用創出どころか、数年前から自衛隊を除く全労働者の大規模な雇用削減計画を持っています。
 それまでの口実は「人口減少社会」「人手不足」「働き方改革」です。そのやり方として新技術の“人工知能“”ロボット代行“などを活用し、今後の省力化、外注化を狙っています。

 A コロナ災害で労働者が自粛している間に、「オンライン」「テレワーク」「裁量労働」などをメリットとして大宣伝をし、コロナ災害を好機に10年以上かかる戦略的合理化を、官民問わず雇用形態の破壊、賃下げを一挙に進めようとしています。

 B 野村総研などは、10〜20年後には日本の労働人口の49%が就いている職場において、人工知能やロボットの代替が可能とする報告をしています。

 C 今回感染防止を理由として、重要統計の中止や調査方法の変更が行われています。厚労省の「国民生活基礎調査」、農水省「食品価格動向調査」、総務省の「家計調査」「労働力調査」等など。

 これらの調査は国や自治体の政策・審議の基礎となり、労働運動の議論の内容ともなるものです。
 つまり、「改ざん・隠蔽・廃棄・統計なし」のデーターで悪政の実態を隠し、さらに悪政を進めようとしています。

 D 国は地方自治を形骸化させ、中央集権を限りなく強めているときに、データーの統一基準がないのも意図的です。陽性者数と死亡者数を少なく見せ、今後の対策も不明にしたい狙いがあります。
 
 E その一方でコロナ対策を理由に、個人情報を本人に同意なく集め、分析しています。またこの事態を利用してマイナンバーを強制的に広げようとし、健康保険証や運転免許との一体化をはじめようとしています。

 F これは言うまでもなく、コロナ感染症災害を理由にして、ビッグデーターやキャッシュレス化など、6月に成立させた「最先端技術による都市づくり」とされるスーパーシティ法や特定秘密保護法などとも繋がっています。
  国家が国民を監視・統制、大衆誘導する社会を一挙に進めようとしているのです。

8、コロナを政治利用する「新たな悪政」に立ち向かう


 @ コロナ災害で国際的に「いのちを奪う」新自由主義の破綻は明白となり、各国でその是正が求められています。アメリカでも差別といのちと貧困に対する歴史的な闘いが始まっています。トランプ政権も倒されました。

 A 日本でも、政権の「愚策」・「利権」・「私物化」から、危ない今の政治状況に気づき、「コロナは人災だ!」の声を挙げ、抗する力を強めることができるはずです。

 B コロナ「自粛」で私たちの権利が脅かされていることを自覚し、私たち自身を励ますべきです。共に「いのち」を守るために、コロナ災害を政治利用する「新たな悪政」に対し、集い・話し合い・考え・気づき・声を挙げて危ないことはやめさせよう!

 C 退職者は現役の労働者に自分たちの職場の権利闘争、賃金闘争の経験をしっかり伝え、励ますことが大切です。「語り部」とは「平和の語り部」だけでなく、労働運動や当時の職場の権利などの「職場の語り部」ともなるべきです。
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