介護保険制度改善要求はどこまで実現するか ――2011年法改正、小幅の改善になりそう―― |
| 退職者連合は4月5日に開いた「福祉医療部会」で、介護保険制度改善要求に対し、「小幅な改善になりそう」との評価をまとめた。法案は通常国会へ上程されることになっているが、地震災害とも関連し、その目途は立っていない。 |
要求と社会保障審議会介護保険制度について、発足後二度目の改定をめざして2011年法改正・2012年施行を念頭に、2010年に見直しの検討が行われた。退職者連合は13項目の介護保険制度改善要求を盛り込んだ2010年対政府要求の実現に取り組んだ。 制度改正は「社会保障審議会・介護給付費分科会」「社会保障審議会・介護保険部会」(写真)を軸に検討が進められたが、これらの場に退職者連合は委員を確保していないため、連合選出の委員との連携で意見を反映した。連合選出委員は、退職者連合の意見によく耳を傾け、意見反映に努めた。 介護給付費分科会は2010年7月29日第66回から9月21日第69回までの4回でまとめ、介護保険部会は2010年5月31日第25回から11月25日第37回までの13回でまとめとする日程で開催された。 介護給付費分科会では、介護老人福祉施設の「居室面積基準引き下げ」「個室化推進原則と低所得者利用支援、従来型施設と個室の併設承認」をまとめたが、これは施設のあるべき姿を示しつつ待機者解消のため現実的に対応しようとするものであった。(その後給付費分科会は2012年報酬改定に向けて2011年2月に審議を再開している。) 介護保険部会は主に政府側が示した五つの論点 @給付=施設・住まい A給付=在宅・地域密着 B給付と負担 C保険者の役割 D介護人材確保と処遇改善――に沿って議論が進められたが、省庁別・事業別に財政増減のつじつまを合わせるという「ペイアズユーゴー原則」の誤った適用により、改善項目は見返りの改悪とセットとする論法が前面に出された。最終報告を前にした第35回分科会で示された給付や負担の見直し等にかかわる主な論点整理では、いくつかの制度改善と引き換えに、利用者負担引き上げ・軽度者への給付抑制など退職者連合の要求と相容れない事項が示され、利用者団体を代表する諸委員の強い反発を招いた。退職者連合も審議会の進行にあわせて必要な反論をまとめて連合・民主党に要請し、民主党のワーキングチームも退職者連合・利用者団体とほぼ同一の立場から意見表明した。 給付や負担の見直し等にかかわる主な論点と、退職者連合の見解 (退職者連合見解は青字で印刷) <利用者負担> 1、高所得者の利用者負担引き上げ(政府試算:第6段階 2割負担) ←所得は保険料に反映すべきで、終期が分からない介護の利用者負担には限度が必要 2、居宅介護支援・介護予防支援(ケアプランの作成)に利用者負担(政府試算:居宅月1000円、予防支援月500円、または一割) ←ケアマネは利用者の代弁者の役割がある、全額保険給付を維持すべき 3、施設利用低所得者補足給付の支給要件にミーンズテスト・入所前世帯所得を追加 ←ミーンズテストは事務コストが大きいうえ、該当者の屈辱感を伴う補足給付の対象者が高率であることを考慮すれば、むしろ保険給付を復元すべき 編注:ミーンズ・テスト→資力調査・生活保護を申請した者に対して行われる調査をいう。国による最低限度の生活水準を定め、それに資力が不足する分だけを補足するという生活保護の基本的考え方。ミーンズ・テストは申請者の収入や資産、扶養義務者の状況などを詳しく調査するという位置づけにある。しかし、これが申請者にスティグマ(貧困の烙印)を与えがちで、抑制的な効果を発揮してしまうことに問題点がある。また日本のミーンズ・テストの要件は西欧諸国に比べて厳しく、扶養義務者の範囲が広いことなどが、生活保護率の極端な低下に繋がっているとする指摘もある。 4、多床室利用者からも室料負担(政府試算:第4段階以上 月5000円) ←個室化を基本として待機者解消の施設整備を急ぐべき。過渡的で相対的に劣る多床室では室料を取るべきではない。 <軽度者への給付> 1、利用者負担の引き上げ(政府試算:重度に給付を重点化・予防給付2割負担に) ←給付抑制につながり介護社会化に反する 2、生活援助サービス縮小(重度に給付を重点化・生活援助など軽度者給付を縮小) ←介護社会化に反する <保険料負担> 2号保険料を人数割りから総報酬割に変更(政府試算:2分の1/または3分の1) ←要求と一致 <被保険者範囲> 被保険者範囲を40歳未満まで拡大(政府試算:30歳まで拡大) ←要求と方向一致 <公費負担割合引き上げ> 公費負担割合を引き上げ(政府試算:5割から6割へ) ←要求と一致 ──────────────────── 法律案、閣議決定される この結果、最終報告は多くの項目で両論併記となり、これをもとに検討され3月11日に閣議決定された「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律案」は、給付削減・利用者負担増を盛り込まなかったかわりに、退職者連合・利用者団体が主張した2005年改悪の修正に至らず、制度改善も限定的なものにとどまった。 この法案は、予算非関連法案として第177回通常国会で審議される予定であるが、震災後の混乱でその見通しは明らかでない。 退職者連合要求の到達点 退職者連合の要求について、審議会論議と法案に照らすと、次のような到達点となっている。 (到達点・評価は青字印刷) 人間の尊厳を守るため、社会化された介護を提供するという制度創設の理念を基礎に、必要なサービスが必要な時利用できるよう制度を整備すること。 ←抜本改善にはならず。 1、医療保険加入者とその扶養家族を介護保険の被保険者とすること。 ←検討課題となったが、前進せず。 2、介護従事職員の人材確保のため、賃金をはじめとする処遇改善をはかること。 ←「介護職員処遇改善交付金」を保険制度内化することが検討されたが、財源・実効性をめぐり意見一致せず、実効ある安定的制度化は実現せず。 3、公費負担割合を6割以上に引き上げ、保険料の大幅引き上げを避けること。 ←検討課題となったが、前進せず。ただし、財政安定化基金を取り崩して保険料引き上げを抑制。 4、介護保険料を応能負担に改めること。 ←1号被保険者は実現せず。2号被保険者については総報酬割が検討課題となったが、前進せず。 5、利用限度額を引き上げ、利用者の必要性を満たす給付とすること。 ←実現せず。逆に給付費分科会では、限度額超過者を過剰ケアプランと認識するような論議をしている。 6、介護報酬の加算方式を改め、利用者、事業者に分かりやすい簡素な制度にすること。 ←利用者代表の委員が主張したが実現せず。 7、ケアマネジャーの公平性、中立性を担保するため資質向上、処遇改善をはかること。 ←検討課題になったが具体的新施策なし。 8、介護サービス利用認定について、認定区分の大括り化を検討すると共に、認定の基準・システムを改善して利用者の必要性を満たすものとすること。特に認知症に関する要介護度を適切に評価すること。 ←具体的前進なし。検討過程では大括り化主張と細分化主張が対立した。 9、生活援助の給付制限を改めること。 ←具体的前進なし。検討過程では保険給付を重度者中心にシフトして軽度者を排除する強い意見があり、利用者代表の委員と対立した。 10、地域包括支援センターの体制を整備し機能を強化すること。 ←考え方としてはその方向が示されたが、具体論は不明。 11、利用者の原則定率1割負担を引き上げないこと。 ←検討過程では一部について引き上げが検討されたが、反対意見が強く法改定を止めた。 12、利用者本位で地域医療と介護の連携サービスを実現し、介護難民を作らない施策を講ずること。 ←医療と介護の連携強化についていくつかの施策が実現。介護療養病床廃止期限を(2017年度末まで)猶予。 13、特別養護老人ホーム、認知症高齢者施策、高齢者向け住宅など、不足しているサービスについて、今後の需要増を見込んで計画的充足をはかること。 ←高齢者の住まいの整備に言及。有効性・貧困ビジネスへの対処の検証が必要。居住型介護施設の整備は従来計画の延長上。 今後、法案審議の到達点を点検して、介護の社会化・高齢者の尊厳という制度の理念に基づき、実施・運用に関する要求と未解決の制度改正再要求の運動に取り組む必要がある。 |
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